中村 菜都子 版画展
うみをわたる aross the sea
毎日の生活の中にある海の景色
空と海のあわいはひとつになり
美しい青色の惑星であることを
わたしたちに気づかせてくれる
海に浮かぶ島々を眺めていると
雲からのぞく山のように見える
島は山であり山は島であること
そんなことも気づかせてくれる
近すぎず遠くない島人との関り
現実的な島での生活を想いつつ
長くて短いまれびとの島暮らし
その間、なんど海をわたったか
真平で広大な関東平野で育った
わたしに長崎は美しい凸凹風景
潮の香りと碧く茂る豊かな緑を
余すことなくもてなしてくれる
古代人々はここではないどこか
常世から寄せては返す波の如く
訪れては帰る来客を迎えいれる
これが長崎がもつ大きなうつわ
船大工町で小さな白い船に乗り
遙か太古のむかしより異邦人を
迎え入れては送り出した長崎と
わたしの旅物語を綴っています
展覧会によせて
遥かへの旅 |
Online Art Gallery「霧とリボン」主宰
ミストレス・ノール
人は常に「遥か」を想う。これからやってくる未来、遠き昔に馴染んだ風景、かつて訪れた、あるいはまだ見ぬ異国の地、いつかどこかで生きた誰かの人生を。大いなる存在や自然への畏怖もまた、遙かへの眼差しだ。菜都子さんの創作活動は私たちに知らせてくれる、「今ここで佳く生きるために遙かを想う」ということを。
ひと筋ひと筋、実直に彫られた描線のモノクローム、時に刺繍糸、洋箔、螺鈿貝殻などで彩られた菜都子さんの版画には、長い時をかけてゆっくりと観想された精神性が宿っている。その観想の道が様々な横道を辿った探求の軌跡であることは、作品から香り立つたおやかな野趣と知性が物語っている。
菜都子さんは決して近道をしない。果てしない距離を丹念に辿り、歩み、渡る。その軌跡である作品を前に、私たちも共に辿り、歩み、渡る。そうして遙かへの旅を共にした後、私たちは今ここへ戻ってくる。往く道は菜都子さんと共に、しかし帰り道は私たち各々、たったひとりきりの旅だ。いつもより軽やかな足取りに、私たちははっとする。
ひと筋が波となり、ひと筋が光となり、その連なりが海となる。菜都子さんはふたたび「うみをわたる」。いくども「うみをわたる」。そして私たちも共に「うみをわたる」。今ここへと帰ってくるために。
海を越えた友情 |
アーティスト
ヘンリエッタ・モリナーロ
菜都子と知り合ったのはずいぶんと前のことで、私たちが美術大学に進学するためにロンドンに居を構えた時だった。私たちは大学のファンデーション・コースを共に受講してまもなく、すぐに友達になった。私たちのつながりは強く、後に別々の学年になったものの、親しい友人であり続け、フラットメイトになった。お互いを知り、それは夢と芸術への愛を分かち合えた特別な時間だった。
私はいつも、菜都子がとても好奇心旺盛で忍耐強い人だとみてきました。この2つの資質は、媒体の選択と題材の選択において、彼女の丹念に作られた作品に反映されている。人、文化、歴史に興味があり、彼女はいつも質問し、耳を傾けていた。稀有な資質だ。
彼女が版画という媒体を選んだのも、おそらく忍耐、計画、内省の表れだろう。この技法は、木のブロックにデザインを彫り、凸部ににインクをのせ、イメージを紙に転写する。その作業は精密で、高度な技術と職人技が要求される。大胆なイメージを通して文化的、社会的、個人的な物語を鮮やかに映し出す木版画は、ファインアート版画の最も古い形式であり、彼女の作品にとても合っているようだ。
ある夏、私たちは私の故郷であるイタリアのモンテプルチアーノを一緒に旅た。そしてもちろん、菜都子は私の家族全員に会うことに興味を示し、私たちの文化について学び、彼女自身の文化を分かち合った。いつか日本を訪れて、彼女にイタリア料理を作ってあげたい。
面白いもので、ある意味、私たちはまったく正反対の性格(私は衝動的で、イタリア人気質)であり、それが私たちの友情を育み、互いへの好奇心と愛情をかき立てたのだろう。
私たちは海を越えた友情だ。しかし、距離が離れていようが、時間が経っていようが、私たちはいつも別れた場所から立ち直る。
そして、私は彼女の華麗な作品を通して、彼女の旅についてもっと知ることが大好きだ。
展覧会詳細
会 期|2024年11月23日(土)- 2024年12月8日(日)
時 間|11:30 - 19:00 <最終受付18:30>
日曜日 18:00 <最終受付17:30>
休 館|月曜日 / 火曜日
在 廊|23日(土)/ 24日(日)
会 場|063 Factory https://063factory.art/
住 所|〒850-0904 長崎県長崎市船大工町3−7
電 話|092-737-7570
プロフィール
中村 菜都子
東京生まれ。京都、ロンドン、パリに在住し、現在は東京に拠点を置く。
祖母の郷里、長崎県五島列島を訪れたことをきっかけに
長崎の自然や歴史、キリスト教文化に触れながら
自身のルーツを見つめ直す旅を続けている。
主な展覧会歴
2022 祈りの旅 | 旧出津救助院 (長崎)
2022 ヒルデガルト・シリーズ共同企画展 | 霧とリボン (東京)
2022 四月の庭 / エデンの園 | ギャラリー水巣 (新潟)
2021 版は物語る | 文房堂ギャラリー (東京)
2019 Travelers | MAHO KUBOTA GALLERY(東京)
2018 Contemplativa ー 観想する生活 | タンバリンギャラリー(東京)
2016 祈りの島 | HB Gallery (東京)
主な受賞歴
2019 令和元年度(第19回) 女子美制作・研究奨励賞 受賞
2016 平成29年度(第18回) 女子美パリ賞受賞女子美パリ賞 受賞
2015 第6回山本鼎版画大賞 入選
2014 第20回 鹿沼市立川上澄生美術館 木版画大賞 入選
経 歴
2005 ロンドン芸術大学
ロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーション卒業
1995 女子美術短期大学
造形学部 生活デザイン学科 金属工芸専攻 卒業
これまでに訪れた長崎の島と町
2015 福江島、中通島、頭ヶ島(五島列島)
2017 長崎市内、平戸市、雲仙市、南島原市
2018 長崎市内、福江市、黒島、奈留島
小値賀島、野崎島(五島列島)
2020 長崎市 外海
2021 長崎市 外海
2022 長崎市 外海
2024 長崎市 外海、長崎市内